シナリオ・センター大阪校クリスマスわいわいパーティー
2018 大阪校5枚シナリオコンクール
佳作
課題「愛し方改革」

バラバラ 作:松本和子(60期生)

船越恵理(43)主婦
船越吾朗(46)恵理の夫

○廃墟となった民家・中
   震災の後、避難して数年を経た様子。
   家財道具が散乱し、荒れ果てている。
   船越恵理(43)と船越吾朗(46)が物
   探しをしている。
恵理「ねぇ、そのなんとかマンのフィギュア
 ってそんなに要る?」
吾朗「レア物なんだよ」
   恵理、辺りを見回し、
恵理「やっぱり、無理よ。ここはもう、私達
 が暮らしてた家じゃない。もうこのまま壊
 しましょう」
吾朗「せっかく避難指示解除されたのに、故
 郷(ふるさと)捨てるのかよ」
恵理「違う、私は守ろうとしてるのよ。これ
 までの生活とか大切にしてた物とか突然奪
 われて、これ以上何も失いたくないから!
 もう、六年よ。前を向いて生きていくしか
 ないじゃない。ここでの生活に囚われて、
 いつまでも新しい環境に順応出来ないあな
 たとは違うの!」
   吾朗、何かを見つけて手を止める。
恵理「近頃の私達、バラバラだよね」
   恵理、出ていく。

○福島県夜ノ森地区
   誰もいない道を歩く恵理。
   疲れ果てた様子でしゃがみ込む恵理。
   数枚の桜の花びらが落ちてくるのに気
   付いた恵理、見上げると視線の先に満
   開の桜のトンネルがある。
恵理「桜……」
   花に見とれる恵理。
吾朗の声「おい」
   恵理、振り返ると、大きな額を持った
   吾朗が居る。
吾朗「見つけたぞ」
恵理「なんとかマンのフィギュア?」
吾朗「それはまだだけど」
   吾朗、額を恵理に見せる。額には所々
   ピースの抜け落ちた並木道の写真のジ
   グソーパズル。
恵理「あ、一緒に完成させたやつ。懐かしい
 けど、バラバラになっちゃったね」
吾朗「また、やりなおせばいい。ピースは揃ってる」
   吾朗の広げた手の平にジグソーパズル
   のピースが数枚。その上に桜の花びら
   が落ちて来る。
   微笑み合う、恵理と吾朗。   (終)