シナリオ・センター大阪校創立40周年記念
20枚シナリオ・コンクール
最優秀賞
課題「上方♥わが町の人と愛を描く」
背負いし者 作:北村四季(78期生)
和田聡子(5・17・29)OL
磯貝敏江(91)聡子の祖母
和田登美子(36・48)聡子の母
雄ちゃんおじさん(58) 声のみ
看護師(23)
高崎重信(74)
〇セレモニー会館・駐車場
10台ほどのスペースの駐車場。
真ん中に喪服姿で遺骨を両手に抱えた和田聡子(29)の姿。
晴れ渡る空を見上げている。
聡子、疲れた様子で鼻で笑い、
聡子「(力なく)めっちゃ晴れてるやん。綺麗な空」
雄ちゃんおじさん(58)の声「さっちゃん!」
聡子が声のする方を向く。
〇バス・車内(朝)
席は満席。立っている人も少しいる車内。
聡子が後方の入り口ドア付近に座っている。手にはタオルハンカチ。
バスが停車し、ドアが開くとおばあさんが入ってくるが席がない。
聡子が声をかける。
聡子「(立ち上がりながら)あの、良かったらここどうぞ?」
席を譲り、立ってつり革を持ちながらタオルハンカチで顔を仰ぐ聡子。
バスから外の町並みが見える。
道々にちょっとずつ提灯が吊るされている。
〇新緑会いずみ病院・入口前の道路(朝)
アスファルトの少し坂になった道。
汗をふきながら聡子が歩いてくる。
古びた白い建物を見上げ、メモと比べる。
聡子「ここ? ……ここか……」
〇同・入口看板(朝)
「精神科・心療内科・リハビリテーション科 医療法人新緑会いずみ病院」
〇同・精神科病棟・廊下(朝)
部屋にかけられた札を見ながら進んでいく聡子。
すれ違う看護師(23)が笑顔で声をかけてくる。
看護師「(明るく)こんにちはー」
聡子は背筋を伸ばし、軽く会釈をしながら微笑んで答える。
聡子「(戸惑い明るく)こんにちはー」
看護師が去った後で真顔に戻り、入っていた肩の力を抜く。
振り返り札を見る。札には「305」の文字と4人の患者の名前。
その一つに「磯貝敏江」の名前。
聡子「あ……」
部屋の入り口に目をやる聡子。
〇同・病室(朝)
入口側から一人一人、ゆっくりと患者の顔を確認する聡子。
聡子「違う……違う、よなぁ」
ゆっくり歩みを進める。窓際の患者を見て息を呑む。
そこには磯貝敏江(91)が口を開け、気持ちよさそうに眠っている。
聡子が恐る恐るベッドに近づき、「磯貝敏江」と書かれた札を確認する。
聡子「おばあちゃん……」
敏江を見る聡子。敏江は眠ったまま。
こみ上げる涙を唇を噛みしめ堪える。
聡子「……昔の面影ないやん」
目線を逸らす。敏江がうっすらと目を開け、聡子を見つける。
敏江「う、うぅ……雄ちゃんか?」
ハッと驚き顔をあげる聡子。
敏江「ちゃうか~、誰かいな」
聡子が身を少し乗り出す。
聡子「おばあちゃん。聡子やで。わかる? 誠二の子供の聡子やで」
敏江「あぁ~! さっちゃんか。久しぶりやな。誠二はどないしたん?」
聡子「おばあちゃん、お父さんはとっくの昔におらんやんか……」
敏江「ほぉ……」
聡子、乗り出していた身を戻す。
聡子「(ため息)覚えてないんか……」
敏江、天井を見ながら口をもごもご。
聡子はベッドガードを握り敏江にまた話しかける。
聡子「ここな、雄ちゃんおじさんに教えてもらって来てん。……あんな、この前、あっさりあの人死んだんやわ。ウチの母親」
敏江「ほぉー」
聡子「ひどいもんやろ? 好き勝手酒飲んで、暴れて。挙句の果てに、ごめんも言わずにさっさと死んで……ビックリするやろ」
敏江「誠二はどーしてんねん」
聡子「お父さんがあの世で怒ってくれてたらええなー。お前どんだけ聡子に迷惑かけんねん! ゆーて。そのせいでおばあちゃんともこんななるまで会われへんかったやん」
聡子、そっと敏江の腕を触る。
聡子「でもな、おばあちゃん。ウチな、どっかでホッとしてんねん。ようやくあの人から解放されたんやで?」
敏江「……(明るく)さっちゃんやんか! 来てたんか? いつ来たんや? 全然気づかんかったわ~」
敏江に微笑む聡子。
聡子「これからは、いっぱい来れるで?」
敏江「ご飯でも食べていきーや。おかあちゃんなんか作るやん。あげさんこーてやなぁ」
聡子「(笑って)そやな! おばあちゃんの厚揚げ炊いたん、めっちゃ好きやったわ」
聡子が嬉しそうに笑っている。
〇和田家・居間(夜)
押入れを開け服の整理をしている聡子。
聡子「服なんか……全部いらんやろ」
服を取り出し更に押入れの中を漁る。
聡子「あ……」
袋に入ったレースのスカーフを出す。
聡子「これ……あの時の」
聡子、辛そうにスカーフをみつめる。
〇(回想)和田家・居間(夜)
TVを見ている聡子(17)。酔っぱらった和田登美子(48)が帰ってくる。
登美子「さっちゃん! まだ起きてたん?」
無視する聡子。
登美子「まだ怒ってるん? マグカップ割ったん。そりゃ、修学旅行の記念で大事にしてたんもわかるけど、わざとじゃないやん」
聡子「……」
登美子、思い出したように鞄を漁る。
登美子「あ! そやそや、お詫びにお母さんこれ編んだんよ! じゃーん!」
登美子が手編みのスカーフを広げる。
登美子「店暇な時に編んだんよ。つけてみて」
登美子は聡子にスカーフを巻こうとするが、聡子は引っ張り投げ捨てる。
聡子「こんなんいらんわ! 怒ってんのはマグカップの事だけやない! いっつもいっつも酔っぱらって……もう沢山や。こんな母親もう沢山や! そっちかてそやろ!」
驚き悲しそうな登美子。
聡子は立ち上がり部屋を出る。
〇元の和田家・居間(夜)
スカーフを手にして唇を噛む聡子。
〇バス・車内
立っている聡子が手で顔を仰いでいる。
中を見ずに鞄に手を突っ込み手編みのスカーフを取り出す。
聡子「あ……なんで、間違おてこんなん……」
困ったようにしかめっ面になる聡子。
〇新緑会いずみ病院・病室
ベッドのそばで椅子に腰かけ、聡子が敏江に話しかけている。
聡子「あれから更に仲悪なってな。もうほとんど喋らんくなって……。おばあちゃん、なんなんやろな、親子って」
敏江「……雄ちゃん、ご飯はまだか~?」
聡子「今日はおっちゃんと区別もつかんか」
聡子が立ち上がり、敏江の服を直していると祭りの音が聞こえてくる。
窓の外を見る聡子。
聡子「あっ! 今日祭りなんか……そや!」
〇国道(夕)
町は祭りの真っ最中。神輿が担がれていく。
少し離れた所でその様子を見る車いすの敏江と後ろに立つ聡子。
聡子「よかったなぁー外出OKもらえて」
敏江「べ~らべ~らべらしょっしょい!」
聡子、驚いて敏江を見る。
聡子「え?」
敏江「あ~あ、どした!」
敏江を見つめる聡子。
敏江「さっちゃんが小さい頃よ。あんたのお母さんとおばぁちゃんと三人で、太鼓見に行ったなー。あんた上乗りたいゆーて」
聡子「……」
敏江「あそこは無理や~ゆーたけど、さっちゃん駄々こねて。お母さん、あんた抱っこして、高い高い~てしてくれたんよぉー」
聡子「あ……」
× × ×
フラッシュ。
登美子(36)に抱き上げられ嬉しそうな聡子(5)。
× × ×
聡子、険しい顔で涙を堪える。
敏江「お母さんは子どもの願いやったら何でも叶えてくれるもんやさかいなぁー。はよ仲直りして。一緒に来よなぁ」
聡子「……おばぁちゃん」
聡子は鞄から手編みのスカーフを取り出し、強く握りしめる。
聡子「もう、仲直りなんかできひんやん……」
敏江に目をやる聡子。
聡子「お母さんの、アホ……」
敏江「べーらべーらべらしょっしょい!」
涙の滲む聡子、敏江の肩を抱く。