2001年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品
課題「赤い靴」
目印は赤い靴 作:西古 里江(45期生)
今回は小道具の使い方が争点となりましたが、西古さんの作品は、ビル崩壊現場でレスキュー隊員の主人公が瓦礫の下に埋もれた女性の声から、命の証となる赤い靴を手掛りに、励まし助け出すという劇的な状況設定が群を抜き、主人公の一人芝居というサスペンス性も工夫されていました。
三浦隆(25)レスキュー隊員
西村桜 (25)
○ビル崩壊現場
多くのレスキユー隊員たちが、怪我人を運んだり、捜索したりしている。
その中に三浦隆(25)の姿がある。
レスキユー犬が瓦礫の山に登って吠えている。それに気づき、駆け寄る三浦。
三浦 「(犬に)タロー、今度は本当だよな」
三浦、しっぽを振る犬を撫でる。
三浦 「(瓦礫の中に向かって)お-い! 誰かいませんか-返事してくださ-い-!」
三浦、耳をそばだてて返事を待つが、返事はない。
三浦 「いますか? 何か合図してくださ-い」
やはり返事がない。三浦、既に別の瓦礫の上で吠えている犬を、ため息まじりに
見つめて、歩き出そうとする。と、コツコツと小さな音が聞こえ、振返る。
瓦礫の中から、再びコツコツと鳴る。
三浦 「(慌てて瓦礫に近寄り) 大丈夫ですか?! すぐに助けますから、待ってて
下さい」
三浦、人を呼びに行こうとした時、
西村桜(25)の声 「……ここにいて。そのまま」
三浦、驚いてまた瓦礫に近づく。
桜の声 「…このまま少し話していたいの、たぶんこれが最後の会話になると思うから」
三浦 「大丈夫ですよ。助かります、きっと…」
三浦、瓦礫を見回すが、桜がどの辺に埋まっているのかわからず、唇を噛む。
桜の声 「私は西村桜と言います。あなたは?」
三浦 「三浦隆です。どこか痛むところは?」
桜の声 「…全然…痛みも麻痺しているみたい」
三浦、瓦礫の隙間を見つけ、奥を見つめる。そこに何か赤いものがある。
桜の声 「……突然来るのね……死ぬ瞬間って」
三浦 「まだわからない。サヨナラ逆転ホームランって可能性もあります!」
桜の声 「(一層か細く)…ありがと、三浦さん」
三浦 「(叫んで)西村さん?! 西村桜さん!」
別のレスキユー隊員がその声に振返る。
桜の声 「赤いエナメルの靴…お気に入りなの」
三浦 「……赤いエナメル? (と思案する)」
桜の声 「遺体で発見された時の……私の……目印」
三浦、はっとしてもう一度瓦礫の奥を見ると、それは赤いエナメルであった。
レスキユー隊員たちが三浦の元へ来る。
三浦 「(隊員に)ここに隙間がある。あの赤い靴が目印だ! あそこに彼女がいる!」
レスキユー隊員たち 「よし! まかせとけ!」
三浦 「赤い靴、君が生きて履いている姿を見たい。大丈夫。俺たちが助け出す。きっと!」
【ノミネート作】
「ふたり」 中田勝也
「最後の靴」 上嶋幸代
「さよならは言わないで」 坂本紀男
「オトナの靴」 岡田尚子