シナリオ・センター大阪校クリスマスわいわいパーティー
2019 大阪校5枚シナリオコンクール
最優秀賞
課題「令和、初の〇〇」

おっかない寿司屋 作:松本秀智(53期生)
 外山宣治(30) サラリーマン
 田町実 (30) 外山の同僚
 沼澤一徹(58) 外山のおじ・「寿司一徹」店主
 沼澤千里(55) 沼澤の妻

○交差点(夕)
   外山宣治(30)と田町実(30)がスー
   ツ姿で鞄を持って10人程の信号待ち
   の先頭で待っている。
   外山、スマホを見る。
外山「ショートメールだ。新元号に伴いこの
 度リニューアルオープンしました。ぜひお
 越し下さい、寿司一徹、だって」
田町「前行ったお前の親戚の寿司屋だろ?」
外山「どうよ、これから行ってみる?」
田町「俺お前のおじさん、苦手なんだよ。頑
 固おやじでちょっとおっかないだろ?」
外山「愛想が無いのは、シャイなんだよ」
田町「悪いけど、一人で行ってくれよ」

○寿司一徹・店内(夜)
   入口の引き戸が開かれ、外山が入って
   くる。
沼澤「へいらっしゃいませ、ご主人さま!」
   外山、いぶかし気な顔でカウンターの
   沼澤一徹(58)の立つ前の席に座る。
沼澤「久しぶり、のぶちゃん」
   沼澤千里(55)がVRゴーグルをつけ
   て、よろよろとお茶を運んでくる。
外山「どうしたの!? 危ない危ないっ!」
千里「食われる、食われる!」
沼澤「VRで今サメに食われてる」
   千里は片手でテーブルを探りながら、
お茶を外山の前に置く。
沼澤「今からお茶に魔法をかけるよ。おいし
くなーれ、もえもえきゅん!」
   沼澤の突然の叫びに驚く外山。
外山「おじさん、どうしちゃったんだよ」
沼澤「近所に回転寿司ができて客が離れてん
だ。だから令和に合わせて路線変更した」
外山「……おじさん、無理してない?」
   沼澤、次第に涙が溢れる。
沼澤「しんどいよ……俺このままだったら、
二重人格になる……」
外山「おじさんらしい方法でやるしかないん
 じゃない? 一徹だったら一つの事に徹し
てよ。似合わない事したって仕方ないよ」
沼澤「一つの事に徹する、か。……ありがと
う。それもそうだな。(清々しい顔で)千
里、それ取れ。もうやめだ」
   千里、VRゴーグルを外す。
沼澤「すまんな、のぶちゃん。取り乱して」
外山「二重人格ってのも見たかったけどね」
   と笑う外山の脳天に沼澤の控えめの
   空手チョップがあたる。
               (了)