永遠のドライブ 作:石井里奈
紗江子は、田辺といるといつからこんなにイライラするようになったのか、とぼんやり考えていた。自分勝手でわがままで、さっきも全く空気も読めず、プロポーズまがいの言葉を、さも紗江子が喜ぶようなテンションで言ってきた。
「何か調子良くないから今日。帰ろう」
はっきりと返事をしなかった紗江子の真意を測ろうともせず、田辺は少し考えてから自慢の愛車に乗り込んで、「気分がてらに少しドライブでもしていこう」 とほほ笑んだ。
が、どこに行くつもりだったのかわからないが、田辺は道に迷い山道に入っていった。首をしきりにかしげながらも進む田辺だったが、道はだんだんと狭くなっていく。不安げな紗江子がふと車窓に目を遣ると、停車している一台の車とすれ違う。さらに、真っ暗になっていく道をしばらく走っていると、またもやさきほどと同じ車とすれ違う。
同じ道を走っているのか、いや、一本道だったはず。
よく見ると、車の中では女がうずくまっている。紗江子が目を凝らしてみると、女は血だらけだった。
「ねえ、あの人何かしんどそうなんだけど。助けにいこうよ」
「何で? 何で助けなきゃいけないの?」
「何で? って……だってさ―」
「関係ないよ、僕達には」
紗江子の中で田辺に対する何かが切れた。
「何で? って……関係なくても、あんなの見て助けないなんておかしいでしょ? そういうところが嫌なのよ、あなたの!……もう嫌だ、別れよう」
「別れるくらいだった死んでやる。僕たちはずっと一緒なんだから」
「え?」紗江子が田辺を見ると、明らかに目つきが変わっていた。
―暴走した車が、幾度か蛇行を繰り返し壁に激突した。
噴煙をあげる車の中、しばらくして、紗江子が目を覚ました。一体何が起こったのか。ミラーに映る自分の顔は血だらけに…… 一瞬のデジャブ。
すると、一台の車が通り過ぎた。車のナンバーが目に飛び込んでくる。それは自分の誕生日だった。田辺がこの車を買った時、自慢げに話してくれた言葉を思い出す。
「どうしても君の誕生日にしたくてさ」
スローモーションのように、車内の人間が目に飛び込んできた。それは、自分と同じ年かっこうの女…いや、心配げな表情でこちらの車内を覗きこんでいる自分。ウソ、そんなはず……次第に意識がもうろうとする中、通り過ぎた車が山道を蛇行する様子が目に入る。まさか……田辺が意識を取り戻す。言ったろ? 君とはずっと一緒だって。田辺の言葉を、紗江子は霞んでいく意識の中で耳にした。そして、再びの衝突音が―