2013年5月 楽しくシナリオ道場
課題「純愛」
8枚シナリオコンクール 光ってる★シナリオ賞 最優秀賞

くさいけど「愛してる」 作:永井和男(72期生)

三谷誠(24) 会社員
川口結衣(23) 誠の恋人
大谷正志(45) 歯科医

◯オープンカフェ・外
   地味な見た目の三谷誠(24)と派手な服装の川口結衣(23)が座っている。
誠「……もしも、もしもだけど鼻毛とかが出てたらちゃんと言って欲しい?」
結衣「え、何、急に。嫌だよ絶対」
誠「でも、もし本当にそういうことが」
結衣「もし、そうなら。女性に鼻毛が出てますよ。なんて言う男は最低。絶対に無理。何でそんな話すんの? 鼻毛でてる?」
誠「違う。全然出てないよ」
   結衣は手鏡で自分の顔を見る。
結衣「それとなくさとすのが男の役目だよ」
誠「それとなく、か……」
結衣「それとなく臭いセリフとか言われたい」
誠「臭い?」

◯大谷歯科・診察室
   誠と大谷正志(45)が対面で座っている。
大谷「それははっきり言った方が良いですね」
誠「無理ですよ。そんな」
大谷「そんなに臭いですか、その人の口は」
誠「はい。ドブのにおいがします。……でもそれ以外は完璧なんです。僕なんか到底及ばない雲の上の存在で」
大谷「とりあえずこれで計ってみてください」
   大谷は誠に小さい口臭計測器を渡す。
大谷「数値が1000を超える場合は治療した方が良いです……相手のためですから」
   誠は計測器を見つめている。

◯アパート・誠の部屋(夜)
   6畳ひと間の部屋。机とベッドがあり誠が口臭計測器の説明書を読んでいる。
   インターホンが鳴り、計測器を隠す誠。
   × × ×
   結衣がベッドでくつろいでいる。
   誠はフリスクを取り出して一つ食べる。
誠「フリスクいる?」
結衣「私はいいよ」
誠「そう……」
   誠はマウススプレーを出して自分の口の中にかけて、結衣をチラッと見る。
結衣「わかりやす」
誠「え? 何が?」
   結衣は目を閉じ、顔を前に出す。
誠「えっと、あの、ちょっと、深呼吸して」
   結衣は目を閉じたまま深呼吸をする。
   誠は計測器を出し結衣の口に近づける。
   計測器の数値表示は『3450』
   誠は驚いた顔で計測器を隠す。
誠「……ごめん」
   結衣は目を開けてうつむく。
誠「あのさ、聞いて……結衣はすごく綺麗でかわいくて僕にはもったいないぐらいで」
結衣「うん」
誠「いやあの、だから思うんだけど、なんていうか結衣の口がさあ、最近だよ。ほんと最近なんだけど。ちょっとなーと思って」
結衣「口?」
誠「うん。結衣の口が……臭いんだ。すごく」
   誠は言い切ってうつむく。
結衣「え?」
誠「装置があって。1000以上がアウトなんだって。でも今計ったら3450だって、ちょっと高すぎない? 生ゴミと同じだって」
   誠は笑って計測器を結衣に見せる。
結衣「……計ったの?」
誠「うん。いや違う。病気かもしれないから。それとなくなんて無理だし、でもこのままだったら結衣のためにもならないし」
結衣「……わかった。ありがと」
   結衣は鞄を持って玄関に向かう。
誠「待って。やっぱ僕の鼻がおかしいんだよ。鼻の骨折るから。やっぱ結衣は完璧だよ」
   出て行く結衣を追って誠は靴を履く。

◯道(夜)
   早歩きの結衣の横に誠が追いつく。
誠「じゃあどうすればよかった? 何が正解だった? 黙っとけば良かった?」
結衣「だからありがとうって言ったじゃん。しつこいよ。あんたもう要らないの」
誠「僕は結衣が必要なんだ」
   結衣はイラついて立ち止まる。
結衣「私、自分でもそこそこの女だってわかってんの。でも昔から何でか、ずっとフラれてきて、今やっとその理由がわかった。私、口臭かったんだよずっと。親には言われたことあったけど、あんたみたいなの相手してんのも、全部そのせいだったんだわ」
誠「……じゃあずっと」
結衣「どいて!」
   結衣は誠を押しのけ、早足で歩き出す。
   誠は泣きそうになりながら振り返る。
誠「……確かに、臭いよ。確かに臭いけど、臭いけど愛してる! 僕は臭いけど結衣を愛してるんだ!! わあああああ!!」
   結衣は驚いて、余計に早足になる。
   誠は泣き叫び、地面に崩れ落ちる。