手塚治虫漫画選集11

WM(ムウ)

性愛と政治をテーマに描いた作品。民主主義とヒューマニズムの描き手として評価される手塚だが、本作では従来のカラーを打ち破って読者を驚かせるほどのピカレスクを描いた。

科学主義とニヒリズムの極致もセンセーショナルに登場する。

MWとは日本の軍事施設が貯蔵していた某国の秘密毒ガス兵器のこと。軍事は政治悪の象徴だ。またMWには男性(MAN)と女性(WOMAN)という意味も込められていて、男女の交わり=性愛の象徴ともいえる。さらに「MW」とは諸悪にまみれた現代世界(MODERN WORLD)を示したタイトルだともとらえられる。

主人公は、銀行員の結城美知夫と神父の賀来巌という幼なじみのふたりの男。美女に見えるほどの容貌の結城は、少年時代にMWが残留していた空気を吸って後遺症で、殺人や裏切りを平然と行う冷酷なエゴイストになってしまう。

一方、男性的な容貌の賀来は同性愛の関係にあった結城から懺悔を聞かされ、悪事の後始末をさせられる。

賀来は性を通じて結城と結びつきながら、同時に結城を激しく憎む。

そのアンビバレンスを描くことで手塚は、現代の性交が憎悪や攻撃衝動に近いということを読者に訴えている。同じことは結城が肉体的交渉をもった女性たちとの関係にもみられる。byメイ

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