手塚治虫漫画選集2
奇子(あやこ)
ある一家のさまざまな人間模様を、戦後史の中で描いた社会派人間ドラマ。戦前の古いしきたりが残る旧家に、容赦なく戦後の新しい思想が入ってきたために起こった混乱と葛藤を、そんな時代を生き抜く日本人のバイタリティと共に描いている。
手塚は、「ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』のような、一家系のさまざまな人間模様を戦後史の中でかきたかった」とも語っている。今なお謎の多い、下山国鉄総裁の変死事件などの戦後混乱期の怪事件をモデルにして、縦横に想像力の輪を広げてフィクションの世界を築き上げた。
また主人公・奇子を「事件の発端を目撃したことから、土蔵のなかで育つ」という特殊な設定にして、彼女の異常な性愛に説得力を与えるなど、手塚の巧みな創作手法がうかがえる。
一応の帰結を迎えた本作だが、手塚は長編にする予定で、その後の主人公の不思議な人生が描かれるはずだった。それだけにこの作品には、手塚の本質的な女性観が表れている。
殺人・暴力・近親相姦など陰惨なエピソードが多い中、奇子は清潔で透明感にあふれている。
東北の大地主の次男・天外仁朗は戦争が終わると、復員して実家に戻る。するとそこには、家長の父・作右衛門が長男・市朗の嫁に生ませた末娘・奇子がいた。byメイ