見当違いの芭蕉俳句への旅1

むざんやな 冑の下の きりぎりす

『獄門島』(横溝正史)では、俳句見立ての連続殺人が、物語の鍵になっている。

この句も、絶壁の上に置かれた釣鐘の中に閉じ込められた娘の死体とともに詠まれている。哀れである。元の句の「きりぎりす」もかわいそうだ。

本当に、「きりぎりす」が冑に閉じ込められたのだろうか。蝶やとんぼは、帽子で捕まえたりするが、捕まえたきりぎりすを冑の下に押し込むだろうか。

そこで、古語辞典のお世話になる。調べてみると「きりぎりす」は鳴く虫の総称で、こおろぎのことだという。なるほど、きりぎりすの<チョン ギース>という鳴き声は、場違いだ。こおろぎなら、戦場に転がっていた冑に、自分で入り込んで<コロコロコロ>と鳴くこともある。

きりぎりすは昼間に鳴いて、こおろぎは夜に鳴く。いずれにしても、ちっとも哀れを誘う句ではない……と、思うのは素人で、伝承では、芭蕉は斎藤実盛(平安時代の武将)の冑を見て、この句を詠んだという。

冑は実盛がかぶっていて、戦に敗れた実盛は首を刎ねられ、残った冑の中でこおろぎが鳴いている。こおろぎは鳴く(美声を奏でる)のではなく、泣いて(悲しくすすり泣いて)いるのだ。いや、冑の下で泣いているのは、実盛の霊かもしれない。こうなれば十七文字で綴るホラーだ。

深夜、冑の中でこおろぎの鳴く声がする。意味深な一句だ。byメイ

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