文楽を見よう10

名作紹介 夫婦善哉

原案は、昭和15年に織田作之助が発表した同名小説だ。昭和62年、国立文楽劇場で初めて上演された。太夫が語る浄瑠璃の文章は口語体で、大阪の雰囲気いっぱいに書き上げたのは、脚本家・石濱恒夫の力量の冴えだ。

大正時代、梅田の化粧品問屋の跡取り・柳吉は、妻子がありながら、芸者遊びなどの道楽が過ぎて、親に勘当されてしまう。北の新地の芸者・蝶子と二人で東京に出て一旗揚げようと駆け落ちする。ところが、上京早々、関東大震災に遭遇して、命からがら大阪に舞い戻る。

時代は昭和に移り、蝶子はカフェを開店し、怠惰な性格の柳吉を養いながら二人の生活は軌道に乗るが、柳吉の父の訃報が届く。柳吉の妻と自認する蝶子だが、葬儀には出られない。絶望した蝶子はガス自殺を図るが、発見が早く一命をとりとめる。

雪の夜、ふたりは法善寺横丁でぜんざいを食べる。このぜんざいは、一人前を二つのお椀に盛って出すところから夫婦善哉と呼ばれていた。「わてら夫婦もこれと一緒、二人が寄り添うてはじめて、一人前」と柳吉がしみじみと語る。

同名映画(1955年作品・監督・豊田四郎)で森繁久彌と淡島千景が演じた名場面が文楽で蘇る。「おばはん、頼りにしてまっせ」は浪花男の名セリフだ。byメイ

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