文楽を見よう3
太夫
俗に「文楽を聴く」と言うが、文楽のかなめは義太夫節を語る太夫にあるのは周知の事実だ。
情景描写から登場人物のセリフまでを語り分けるのだから、至宝の芸と言える。
太夫は、三味線弾きと並んで、人形が操られる舞台の上手(=向かって右側)にある「床」で語る。
黒の着付けに裃を着用して、「見台」を前に置き、シナリオにあたる「床本」を見台に載せる。
語りは腹式呼吸で行うため、「尻引き」という小さな椅子を尻に当てて座る。だから太夫は、つま先を立てて座っているのだ。
「床本」は、浄瑠璃文字で、1ページに5行、1行に8~9文字で書かれている。
販売されているものではなく、師匠や先輩から譲り受けるか、太夫自ら写本している。
床本は置いているだけで、見ていたら三味線のリズムにのれないので、太夫は暗記している。
語ると唾液が飛ぶ。何代もの太夫に受け継がれている床本は、唾液がいっぱい飛んでいて汚い。
しかし、汚い床本ほどありがたい。床本に飛んでいる唾や汗の数で、その場面を語るのにどれだけ力が入っていたかが分かるのだ。
腹の底から声を出すためにも工夫があり、下腹を「腹帯」で締め上げ、小豆や砂を詰めた筒状の袋である「オトシ」を懐に入れている。byメイ