「文楽の世界から学ぶこと」

艶やかな文楽人形に和服姿の講師……。昨春襲名披露された文楽人形遣い・三世桐竹勘十郎氏のご講演は、いつもと少し違って日本色ムード豊かな中、始まりました。
平成16年2月28日(土曜日)。

桐竹勘十郎(きりたけ かんじゅうろう)氏プロフィール
浄瑠璃の人形遣い
本名/宮永 豊実(みやながとよみ)
生年月日/昭和28年3月1日(大阪市住之江区で生まれる。)
父/故・二世桐竹勘十郎 人形浄瑠璃文楽座 人形遣い(重要無形文化財保持者)
姉/三林京子(女優)

芸歴とご活躍

芸歴
昭和42年7月 文楽協会 人形部研究生となる。(14歳)三代吉田蓑助に師事。吉田蓑太郎と名のる。
昭和43年4月 文楽協会技芸員となる。初役は「壇ノ浦兜軍記」阿古屋琴責の水奴。於、大阪毎日ホール。
以降、年間の各公演に出演。
平成15年4月 三世 桐竹勘十郎を襲名。
海外公演など
昭和48年3月 カナダ、アメリカ公演で海外公演初参加。以降、ヨーロッパ各国、台湾、中南米 オーストラリアなどの公演に参加。
平成6年7月 フランス(シャルルビル メジャール)にて各国の受講生の為の夏期セミナーに 講師として参加。三人遣いの基本などを教える。
平成9年3月 浄るりシアター5周年記念事業での新作浄瑠璃「名月乗桂木」「能勢三番叟」の演出、人形指導を担当する。
作品(新作浄瑠璃、作曲は鶴沢清介)
・ 端模様夢路門松(つめもようゆめじのかどまつ)
・ ひょうたん池の大鯰(ひょうたんいけのおおなまず)
・ 桜物語(さくらものがたり)
・ 鈴の音(すずのおと)
・ 国立文楽劇場の毎公演の記念スタンプ用原画を担当(昭和59年~)
受賞
昭和48年2月 国立劇場奨励賞
昭和49年5月 人形浄瑠璃因協会奨励賞(同賞11回)
昭和50年1月 文楽協会賞
昭和59年1月 国立劇場文楽賞、文楽奨励賞(同賞3回)
昭和61年2月 第3回咲くやこの花賞
昭和63年2月 大阪府民劇場賞奨励賞
平成7年3月 芸術選奨文部大臣新人賞
平成10年7月 人形浄瑠璃因協会賞
平成11年1月 第18回国立劇場文楽優秀賞(同賞2回)

講義内容

印象深かったのは、本物の人形を使っての実演に、持参下さった様々な小道具。頭と右手を遣う主遣い、左手を遣う左遣い、足を遣う足遣い……3人遣いによ る人形はどのように動かされるか? 3人の息の合わせ方、動きのタブー、魂のふき込み方など、動かして楽しく解説して下さり、時代の中で練り上げられた心 技一体の芸能に、参加者もついため息。小道具では、主遣いが舞台で履く下駄や、めったに見ることができない、特別な文字で書かれた貴重な台本など、演じる 人の汗が感じられるようなものでした。

修業についてはその厳しさを、ご自身の苦い経験に、ちょっと笑えるエピソードも交えて説明。師匠や先輩、同輩との関係に、未知の世界に生きる方たちのドラマが感じられました。
他、歴史、頭や人形の仕かけ、実際にあった人形にまつわるミステリアスなお話など、内容は盛り沢山。文楽通への第1歩を踏み出した気分でした。

お話の中でも「出るときは、自分が何者であるかよく考える」「技術に加え、役の性根をつかむことが大切」などの言葉は、ライターも身につまされるもので、伝統芸能の世界に学ぶところ大の2時間でした。

参加された方々のお声

  • 本当に楽しかったです。間近で人形を見ることが出来て、本当に人間以上に人間らしい表情と、気持ちが伝わってくるものだと思いました。不思議な気持ちがします。歌舞伎を観るようになってから文楽にも興味を持ち、何度か観ましたが、そのたびに浄瑠璃方と人形方の息など、感動しました。しかし、大阪ではありがたいことに毎月といっていいほど文楽が観られるという安心感で、行こう行こうと思いながら…という状態です。もったいないです。4月はぜひ行かせていただきます。
  • 文楽について全く無知で、資料を読みながら話についていけるかと心配でしたが、おもしろそうと、すごく興味がわいてきました。人形の、本物の人間のような動きがとても感動的でした。
  • 文楽の世界に少しも触れたことのない私でしたが、すっかりそのおもしろさに取り付かれてしまいました。人形で人間よりも人間らしく演じることを心がけるとおっしゃられたことに、とても感銘を受けました。自分の技術を高める向上心を学ばせていただきました。
  • 「師から盗む」という精神からは、最近の何でも教えてもらわないと出来ない風潮への風刺を感じ、とてもおろしろかったです。
  • 未知の世界のお話でしたが、とてもおもしろく、わかりやすく、拝聴させていただきました。
  • 本当に一度、ナマの文楽を観に行きたくなりました。文楽の知識だけでなく、何かを表現する人の心意気のようなものが伝わってきて、とても有意義な時間でした。ありがとうございました。
  • 女形は円で描くように優しく遣うなど、細かい芸事のやり方が分かり、おもしろかったです。三人で人形を動かすにあたり、合図されているなど、大変だなぁと感じました。「人間よりも人間らしく」との人形の動きが実際に観られて感動しました。修業時代の、舞台が終わったら人形がばらされていたというエピソードが、とてもおもしろかったです。技と心のバランスが必要ということが、大変勉強になりました。
  • 文楽は今まで一度観ただけですが、本日は所作の流れの美しさに感動しました。風にたなびく大樹そのまま、自然を感じました。無機質なものが生きる、呼吸すると感じました。又、女性として奥ゆかしい動作、優雅さなど、とても勉強になり、次回、劇場で拝見するときの気持ちが、きっと変わっているだろうと感じました。

  • すばらしいお話をお聞きすることができて感激しました。文楽を観たいと思いましたし、文楽のシナリオを書いてみたいと思っています。できればもう一度、講義をお聞きしたいです。
  • 桐竹先生のおっしゃっていた、ナニワ言葉がなかなか聞けなくなりました。ぜひ次の機会には、その使い方、アクセント、イントネーションなどを伺いたく存じます。
  • 師匠と弟子の厳しい関係に、ドラマ以上のドラマを感じました。
  • 舞台の時は険しい表情をなさっている勘十郎先生の、普段の明るくてあたたかなお人柄
    がよく伺えて、大変楽しかったです。ますます勘十郎先生、文楽のファンになりました。本当にありがとうございました。
  • 文楽について、言葉は知っていますが、全く無知でした。どのように動かすのかから、心得まで伺えて、なによりも楽しかったです。又、人に対するお心遣いも、人一倍と感じました。お父さまが子どもの頃、楽屋につれていって下さったり…というエピソード、親が遊園地や旅行につれていくよりも、仕事場につれていく…すばらしい事だと思います。
  • 人形遣いというのは技術者であり、演技者であるという言葉が、心に残りました。人形を遣うということは、全身で奏でる表現であることが、よく分かりました。「義経千本桜」必ず観にいきます。
  • 大学時代に能楽(金春流)をしていたので、興味があり出席しました。人形はもちろんですが、まず先生の品と華に圧倒されました。ほんのわずかな手の動き、顎の角度で、人形がぞくりとするほどなまめかしくて色っぽいので、とても惹きつけられました。何よりも足遣いをさせていただいたのが嬉しかったです。ぜひ4月公演を観にいきたいと思っています。