岡田惠和さん

於:2011年12月18日 「シナリオ・センター大阪校創立35周年記念パーティー」

「自分が考えていること、自分が思っていることを書くのではなく、全く自分とは違う人間のことを書くのが僕は、ドラマの脚本だと思っています。つまりそこに興味が持てない人、つまり自分が思っていることを伝えることにしか興味がない人は、ドラマに出てくる登場人物が本当に単純に、単にそのための道具になってしまうわけです。自分以外の人間が何を考えているのか、そこに興味をもてる人が脚本家に向いているんだと僕は思います。

そもそも男性が女性を書くということも含めて、勿論自分以外の人間の気持ちなんてわかんないし、そこに答えはないけれども、それを考えるのが好きであるかどうかというのが、大きな分かれ目なんじゃないかなという風に思っています。

それから僕がシナリオ・センターでゼミにいた時の20枚シナリオの授業というのは、皆で意見を言う時に、基本的に本人は弁明なしにみんなに意見を言われるというようなスタイルだったと思います。ただそれは正直他の学校にはやっぱり無いスタイルで、勿論精神論であるとか、テクニックであることとかは教えてくれるんですけど、僕はそこが、そこに打たれておくということが、一番大きな力になっていると思います。その時も、僕も出すたびに軽い軽いと言われ続け、今でも言われることありますけど、ただその時に一番やっぱり思うのは「こんなに自分はわかってるつもりでも伝わらないんだ」ということ。それから「そんな風にとるんだ」とも思う。その気持ちっていうのはこの仕事には死ぬまでついていくことで、テレビで放送していても「本当にそういうふうにとるんだ」って思うこともあるし、「それがわかってもらえないんだ」って思うこともあるし、「そんな風に人は誤解するんだ」って思うし、そこと戦っていくというか、そこと折り合いをつけていくというのが多分ものすごく大事なんだと思います。

だからそこで、気持ちがめげるときってあると思うんですけど、他の人の意見っていうのが視聴者なんだというふうに思って、言われたことはちゃんと受け止めて、それが本当に良い力になっていくと思いますので頑張ってください。

僕はシナリオコンクールでテレビ朝日のシナリオコンクールと城戸賞の審査員を何年かやらせていただいてますけども、やっぱりシナリオセンターからの作品が、毎年必ず何人も入っていて、必ず何人か上位にくるというようなことになってます。それはやっぱり前提として読ませるシナリオとしてちゃんとなってる人が多いのと、自分の思いを伝えるというのはやっぱりそれはある種の技術だと思うので、そこがきっちりできている人の多いことがその結果に繋がっているんだと思います。そういうところでセンターの名前を見るのは一応先輩というかOBとしてはとっても嬉しいことだし、授賞式とかでもシナリオ・センター出身のコンクール受賞者とは何人も会ってきて、とってもそういうときには嬉しく思います。それから向田邦子賞の審査員というのもやっておりますので、プロになって、いいものを書いて、そこまでくるようにぜひみんなに頑張ってほしいなというふうに思います。

そして僕はテレビドラマを主に本職というか中心にしてやっているんですけどもやっぱりテレビの世界では、脚本家はすごく大切にされます。大切にというのは、すごくお金がもらえるとかそういう意味ではなくて、存在としてすごく大きな場を与えられるというか、普通の方でもテレビの脚本家って、例えば橋田さんとか山田さんとか知ってる人が多いと思うんだけど、テレビの演出家の名前はほとんど知らないと思います。だから、みんな脚本家の名前で見るってことを中心に考えてる。そういう意味ではすごくテレビは、脚本ありきという世界がものすごく強固にあるので責任が重いし、責任が重いということはすごく楽しい仕事だと思います。
基本的には人と一緒に作るものなので、いろんな人との出会いがあって、それが本当にその人の人生を作っていくというか、やっぱり一緒にものを作れる仲間がいるということは本当に楽しいことだと思うので、どうか皆さんもそういう思いを次のステージで出来るように頑張っていただきたいとそういう風に思います。

とにかく、決して自分に人の頭を抜くような才能があったと思っていないし、やっぱりシナリオセンターに通っていた時にも「こいつ面白いな」と単純に思えるような仲間もいたし、ただそこで学んだのは、やっぱり書き癖をまずつけるということ。それから、書くっていう作業はある種の諦めを伴うというか一回頭をそこでとめるというか、ひょっとしたらもっと良いことが先に思いつくかもしれないということをある種一回諦めるというか、現時点での自己ベストを出すというか、そういうことって実はすごく難しいんだけど、それができるようになったっていうのは学校のおかげだと思っています。なのでどうか皆さんも、ひょっとすると、書いててこんなはずじゃなかったと思うことってあると思うんだけど、こんなはずじゃなかったものを一回書くということが、如何に大事であるかということをすごく思いますし、それをやらないと次には絶対進めないという風に思います。

学校の仲間だけじゃなくて、僕は一回母親に台本を読ませたことがあるんですけど、デビューする前ぐらいにもう本当に二度と会いたくないぐらいのことを言われ、私が書いた方が面白いとまで言われたことがありました。たぶん本当の視聴者はそういう人たちなので、そういう人たちが面白いと思うテレビドラマを、これから皆さんと一緒に盛り上げていきたいと思います。「ちゅらさん」をやった時に初めて母に面白いと言われました。その時、やってきてよかったなと思いました。そういう思いがきっと皆さんにもあると思います。こうやってここで会えたのも、なにかのご縁なので是非次は違うステージで、皆さんとお会いできるのを楽しみにしておりますので、どうか頑張ってください。というか、一緒に頑張りましょう。今日はありがとうございました。