○ヘアサロン・ヴィータ外観(夜)
ガラス張りの店、照明が点り人影が見えるが、扉に“close”の札。
○同・店内(夜)
投げやりな表情で床にモップをかけながら、携帯電話で話す祐(27)。
祐「ここで認められるんが夢やったけんども、年明け実家帰りよったら…
そのまま向うで」
祐、扉を開けた純江(73)に気付く。
祐「あっ、すまん…また後でかけるけん」
祐、純江に向かい事務的に頭を下げる。
祐「申し訳ありません、もう閉店なんで」
純江「え?でも電気が、ああ」
片付けられた店内を見て納得する純江。
祐「明日以降のご予約でしたら、承りますが」
純江「寂しげに)いえ、いいわ」
扉を閉める純江、雪が降り始める。祐、仕方ないという表情で扉を開ける。
祐「あの、もしカットだけでもよかったら」
純江、パッと明るい笑顔で振り向く。
× × ×
鏡に向かう純江の、白髪の目立つ癖毛を、顎の下辺りでカットする祐。
祐「(鏡の純江に)いかがですか?」
純江「(ハニカミながら)もっと上です」
少し戸惑いながらも、純江のうなじ辺りに鋏を入れる祐。
× × ×
純江が被るケープに髪束が落ちてゆく。
純江「あの…もうちょっと上」
祐「え?でも」
純江「思いきって雑誌の切り抜きを出し)この髪型に!…一回やってみたかったの」
祐「ローマの休日、オードリーヘップバーン」
純江「十七の時、映画見てから…おかしい?」
祐「(慌てて首を振り)似合うと思います」
純江「(喜び)お世辞でも嬉しい!…これで思い残すことなしに、明日入院できるわ」
祐「(鋏の手が止まる)え?」
純江「簡単な検査、でも…一人で支度してたら、居ても立ってもいられなくなって…
こんな時間に、ここだけ電気が灯ってたから」
祐「髪、黒くしましょう!お体辛くなければ」
純江「体は全然、でも…これ以上のご無理」
祐「その代わり、退院されたら、必ずまた来てください、で、僕を指名してください」
純江「頷き)じゃあ、年明け、退院したら」
祐「はい、年明け、お待ちしております!」
元気に、純江のケープを掛け代える祐。
(終)
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