2003年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品 
課題「18年ぶり」


18年振りのプレゼント  作:栗田博子(54期生)
<人 物>
桜樹将(20)
 関西チーターズ・野球選手
秋原隆(58)
 関西チーターズ・コーチ
秋原空(29)
 隆の娘
父の角膜を譲られた女性が、父の代わりに見つめていてくれた……。科学が生み出す人間の喜びが伝わります。5枚シナリオの奥に隠れたそれぞれの人物の心の履歴が感じとれ、秀逸です。
○関西チーターズ球場・グラウンド (夜)
   ベンチから、バンザイしてマウンドに駆け寄る選手達。
   マウンド上では桜樹将(20)が、キャッチャーに抱き上げられている。
   スタンドは地鳴りのような大歓声。
   将達が監督を胴上げする。
   続いて将が胴上げされる。
   将の目に映る満天の星空。

将の声「……追いついたぜ、親父……」


○同・客席(夜)
   無人の客席に秋原隆(58)と、一枚の写真を手にした私服の将が座っている。
   写真では、チーターズ・ユニフォーム姿の将の父が、2歳の将を抱いている。


隆「よくやってくれたぜ。お前の親父さんも大投手だったけど……」
将「俺、親父の記憶って一つもないんですよ。
 なんせ18年前の優勝の次の日、事故で死んでるし。写真やプレゼントは一杯あ
 るけど」
隆「お祝い好きの男でよ……、お前の生まれた日にノーヒットノーランしたんだぜ」
将「それ、テレビの特集で見ました」

   将、星空を見上げる。

将「俺ね、ずっと親父の写真とかビデオとか見て育ったんですよ。親父を目標にここ
 まで来れた。けど本当は、一度でいいから親父にも、頑張った俺を見て欲しかった
 なあ」
隆「……」
将「(テレて)……なんて、いい年して甘ったれてますね」

   隆、視線を足元に移す。


隆「……俺の娘に会ってくれねえか?」
将「は?」
隆「今、後ろにいるんだけどよ」

   将、振り向く。
   少し離れて秋原空(29)が立っている。
   穏やかな表情の優しそうな女性。
   空、将に頭を下げ、将の隣の席に来る。


空「空といいます。あの事故の後、将さんのお父様に角膜を譲って頂きました」
将「えっ!?」
空「その時の約束なんです。『息子が20歳になったら、この目でその晴れ姿を見に
 行ってやってくれ。俺の息子だから立派にやってると思うが』って」

   呆然と空の瞳を凝視する将。

空「この目はお父様の目です。将さんを見守る為、ここに生きていらっしゃるのです」

   見開かれた将の目から涙が溢れ出す。

 <終>
【ノミネート作】
「樹海に眠れる母の手に」 三間 祥平
「18年振りのプレゼント」 栗田 博子
「魔法のソース」 芝田 香織
「帰国」 石田 拓
「堀のある坂道」 岡田 尚子
「相思相愛」 田村 克弥