○関西チーターズ球場・グラウンド (夜)
ベンチから、バンザイしてマウンドに駆け寄る選手達。
マウンド上では桜樹将(20)が、キャッチャーに抱き上げられている。
スタンドは地鳴りのような大歓声。
将達が監督を胴上げする。
続いて将が胴上げされる。
将の目に映る満天の星空。
将の声「……追いついたぜ、親父……」
○同・客席(夜)
無人の客席に秋原隆(58)と、一枚の写真を手にした私服の将が座っている。
写真では、チーターズ・ユニフォーム姿の将の父が、2歳の将を抱いている。
隆「よくやってくれたぜ。お前の親父さんも大投手だったけど……」
将「俺、親父の記憶って一つもないんですよ。
なんせ18年前の優勝の次の日、事故で死んでるし。写真やプレゼントは一杯あ
るけど」
隆「お祝い好きの男でよ……、お前の生まれた日にノーヒットノーランしたんだぜ」
将「それ、テレビの特集で見ました」
将、星空を見上げる。
将「俺ね、ずっと親父の写真とかビデオとか見て育ったんですよ。親父を目標にここ
まで来れた。けど本当は、一度でいいから親父にも、頑張った俺を見て欲しかった
なあ」
隆「……」
将「(テレて)……なんて、いい年して甘ったれてますね」
隆、視線を足元に移す。
隆「……俺の娘に会ってくれねえか?」
将「は?」
隆「今、後ろにいるんだけどよ」
将、振り向く。
少し離れて秋原空(29)が立っている。
穏やかな表情の優しそうな女性。
空、将に頭を下げ、将の隣の席に来る。
空「空といいます。あの事故の後、将さんのお父様に角膜を譲って頂きました」
将「えっ!?」
空「その時の約束なんです。『息子が20歳になったら、この目でその晴れ姿を見に
行ってやってくれ。俺の息子だから立派にやってると思うが』って」
呆然と空の瞳を凝視する将。
空「この目はお父様の目です。将さんを見守る為、ここに生きていらっしゃるのです」
見開かれた将の目から涙が溢れ出す。
<終> |