2002年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品 
課題「くどきのセリフ」


祇園の夜明けを  作:小松 恵(50期生)
<人 物>
琴乃(24) 祇園の芸妓
上沢鏡吾(24) 土佐出身の浪人
          琴乃の恋人
幕末の日本の夜明けと、意志を恋に託した、新しい女性の夜明け…ふたつの夜明けが、ポジティブな生命力を感じさせます。
○曙屋・外観 (夜)
   鴨川近くの小さなお茶屋。
   一八六八年・冬・京都

○同・二階の一室・中 (夜)
   上沢鏡吾(24)に寄り添って座る琴乃(24)。鏡吾、格子窓の外の夜景をじっと寂
   しげに見つめている。


琴乃「……祇園の見おさめどすか?」
鏡吾「(驚き) おまん、何で……」
琴乃「お座敷で耳にしました。土佐を脱藩した若い人達が、薩摩、長州といっしょに、
 幕府相手に戟をおこしはる、て」

鏡吾「坂本さん、中岡さんの志を引き継ぐんじゃき。日本の夜明けのためぜよ。わしら
 がこの国救うんじゃ!」

琴乃「目の前の女一人救うこともできんお人が、何でこの国を救えんのんどす」
鏡吾「ベ、べこのかあ! ヘリクツ言うな!」
琴乃「うちはあんたを救えます!」

   琴乃、鏡吾を押し倒す。

鏡吾「(驚き)な、何するきに!?」
琴乃「あんたに抱かれるんやおへん。今夜はうちがあんたを抱くんどす」

   琴乃、鏡吾の手を自分の胸元に導く。

鏡吾「琴乃……やめえ……決心が鈍るきに……それがおまんの狙いかよ」
琴乃「違います。うちがなんぼくるおしゅう抱いても、あんたは夜が開ける前に姿を消
 してしまわはる。ほんならせめて、もう一ペんうち を欲しゅうなって戻って来はるよう
 に、はしたないくらい強う抱くんどす。うちの身体は死土産やあらしまへんえ!」

鏡吾「琴乃……」
琴乃「志ゆえの立派な死にかたも、うちから見たらただの犬死にや。みっとものうても
 ええ、どんな卑怯な手使わはってもええ、惚れた男はんには生きとってほしいんや
 !」


   涙があふれる琴乃、それを鏡吾に悟られないよう立ち上がり、背を向ける。

琴乃「堪忍しとくれやす。言葉がすぎました……ただ……(静かに)うちは日本の夜明
 けの事はようわからん。そやけど、生きて戻らはったあんたと、もう一ペんこの場所
 で、祇園の夜明けを見たいんどす……」


   寂しく微笑む琴乃の横顔、涙がつたう。鏡吾、ゆっくりと立ち上がり、琴乃を後ろ
   からやさしく抱きしめる。


鏡吾「……おまんには、負けたぜよ……」

   格子窓の外では満月が輝いている。 

 <終>
【ノミネート作】
「アンコール」 湊 ゆき子
「月明かりの二人」 塚本久子
「自殺志願者」 田村克也
「恋するポリ嘘グラフ発見器」 菅 浩史
「クリスマスの夜に」 窪堀清美