2000年大阪校5枚シナリオコンクール最優秀賞作品 
課題「大失恋」


最後の嘘  作:清水 ますみ(48期生)
<人物>
堤 祥子(38)弁当屋店員
池上紀夫(35)祥子の恋人・警備員
飛田 (55)  刑事
清水さんの作品は男女とも2つの失恋が描かれていたことと、ビッグな設定を狙う人が多かった中で、ショックの深さが狙われていたことが光りました。また、5枚という長さの中で主人公の豹変が描かれていたことにも、構成力を感じました。
○紀夫のアパートの部屋・中(夜)
   堤祥子(38)が鞄に洋服を詰めている。
   茫然と見ている池上紀夫(35)。


紀夫「どういうことだ? 出てくって」
祥子「飽きたのよ、こんな退屈な生活」


   紀夫、祥子の手から鞄を引ったくり、

紀夫「ウソだろ? そんな素振り、全然……」

   紀夫、祥子の手から鞄を取り返して、

祥子「鈍感なのよ、あんた。私がどれだけ、この生活に嫌気がさしてたか、わかんない
 んだから」
紀夫「だって、昨日も二人で食事に……」
祥子「もう、うんざりなの! こんな退屈な生活も、それ以上に退屈なあんたもね!」


   紀夫、祥子の頬を叩く。
   哀しそうな表情の紀夫、飛び出していく。入れ替わりに入ってくる飛田(55)。


祥子「お待たせしました」

   両手を飛田に差し出す。
   飛田、首を振り、


飛田「ええ。おまえが無駄な抵抗せんのは、わかっとる。長いつき合いやからな」
祥子「感謝してます。時間くれて」


   飛田、部屋の中を見回しながら、

飛田「それにしても、今回は手こずったわ。まさか、おまえがこんなとこにおるとは、思
 わんかった。金目のものがある部屋には見えんけどな」


   祥子、笑いながら、

祥子「ある訳ないじゃないですか。こんな部屋に」

   畳の上に水滴が落ちる。祥子の涙。

祥子「あんな不器用な人、初めて見ましたよ。何するにも要領悪くて。お弁当買いに来
 ても注文するのはいっつも最後。あれじゃ、お金なんて貯まる訳ないですよ」


   涙の止まらない祥子。

飛田「おまえ、もしかして……。よかったんか? あんな別れ方して」
祥子「言える訳ないでしょう。結婚詐欺師だなんて。男を騙して、お金を巻き上げて生
 きてきたなんて」


   祥子、泣き笑いの表情。見つめる飛田。

○酒屋・前 (夜)
   ビールや酒の自動販売機が並んでいる。
   その前で酔いつぶれている紀夫。
   通り過ぎていくパトカー。中に祥子と飛田の姿。 


 <終>
【ノミネート作】
「ココロノコリ」 児島信子
「送りの響」 上嶋幸代
「ブランコ」 長山公一
「サムシング・ブルー」 綾田えい子