○紀夫のアパートの部屋・中(夜)
堤祥子(38)が鞄に洋服を詰めている。
茫然と見ている池上紀夫(35)。
紀夫「どういうことだ? 出てくって」
祥子「飽きたのよ、こんな退屈な生活」
紀夫、祥子の手から鞄を引ったくり、
紀夫「ウソだろ? そんな素振り、全然……」
紀夫、祥子の手から鞄を取り返して、
祥子「鈍感なのよ、あんた。私がどれだけ、この生活に嫌気がさしてたか、わかんない
んだから」
紀夫「だって、昨日も二人で食事に……」
祥子「もう、うんざりなの! こんな退屈な生活も、それ以上に退屈なあんたもね!」
紀夫、祥子の頬を叩く。
哀しそうな表情の紀夫、飛び出していく。入れ替わりに入ってくる飛田(55)。
祥子「お待たせしました」
両手を飛田に差し出す。
飛田、首を振り、
飛田「ええ。おまえが無駄な抵抗せんのは、わかっとる。長いつき合いやからな」
祥子「感謝してます。時間くれて」
飛田、部屋の中を見回しながら、
飛田「それにしても、今回は手こずったわ。まさか、おまえがこんなとこにおるとは、思
わんかった。金目のものがある部屋には見えんけどな」
祥子、笑いながら、
祥子「ある訳ないじゃないですか。こんな部屋に」
畳の上に水滴が落ちる。祥子の涙。
祥子「あんな不器用な人、初めて見ましたよ。何するにも要領悪くて。お弁当買いに来
ても注文するのはいっつも最後。あれじゃ、お金なんて貯まる訳ないですよ」
涙の止まらない祥子。
飛田「おまえ、もしかして……。よかったんか? あんな別れ方して」
祥子「言える訳ないでしょう。結婚詐欺師だなんて。男を騙して、お金を巻き上げて生
きてきたなんて」
祥子、泣き笑いの表情。見つめる飛田。
○酒屋・前 (夜)
ビールや酒の自動販売機が並んでいる。
その前で酔いつぶれている紀夫。
通り過ぎていくパトカー。中に祥子と飛田の姿。
<終>
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