○コロンビア大学記念ホール・中
舞台への階段を上がる高野慎二(35)の背中。
○(回想)ホテル・ハノイのバー・中(夜)
思いつめた表情の高野がカウンター席に座り、カウンター端に座っていた今村
渡(38)が近寄って来る。
今村 「国際通信のエースがシケた顔だな」
高野、眩しそうに今村を見上げて、
高野 「今村…、今回ばかりは俺の見当違いか?……どうだ首都ハノイのこの平和
ムード……IP通信のあんたの同僚も浮かれてたぜ」
今村 「中国国境軍の動きが気になるのか?」
高野、むすっとして正面を向く。
一方、今村は高野に体を向けて、
今村 「どうやら、キナ臭さを嗅ぎ取ってるのは俺たちだけだぜ、またしてもな……」
高野、グラスを飲み干し深く息を吐き、
高野 「そうさ、他社の連中はアメリカとの通商条約締結準備に来てるヤンキーの尻
を追い駆け回してるよ。国境ばかりに気が行く俺は能ナシで、明後日には本国送還
さ…」
今村、やれやれ、という顔。
今村 「なあ、俺達はいつでも能ナシなのさ。高野……、向こうの国境軍は明朝動く、
条約締結を背中から威嚇しようってんだ」
高野、驚いて今村の方へ向き直る。
今村 「お前も冴えてるぜ! ピュリッツァー賞は俺が先だ。そん時ゃシャンパンシャ
ワーを頼むぜ、特大のマグナムでな……」
○(回想)べトナム国境付近の野原(早朝)
平原に集結する部隊。
高野領いてカメラを抱え、屈んで進む。
赤い星を付けた狙撃兵、高野を狙う。
今村、狙撃兵に気付き、とっさに立ち上がり、高野に向かって走る。
銃声何発か、振り返った高野、息をのむが、すぐカメラを構える。
シャッターを切る音、倒れる今村の姿。
我に返った高野、今村に駆け寄る。
血に染まった今村、弱々しく笑って、
今村 「撮ったか、俺を、それでいい……」
高野 「だめだ! お前マグナムで、シャンパン・シャワーをって! こんな所でだめだ
っ−」
○元のコロンビア大学記念ホール・中
ライトを浴びたスーツ姿の高野、目頭を押さえるが、すぐ毅然と頭を上げ、
高野 「(英語で)今世紀最後のピユリッツァー、記念すべき栄誉は、亡き今村渡と共
に」
<終>
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