2011年大阪校大阪校わいわいクリスマスパーティ
課題「幸せの一瞬」 ねむの木の子守歌 作:西 史夏(第62期 作家集団) |
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○神戸市・遠景(夜)
○同・長田辺りの雀荘(夜) 麻雀に熱中している村山雅夫(30)。 ○同・長田荘・全景(夜) 住宅密集地の一角。静が歌う「ねむの木の子守歌」が重なる。 ○同・村山家・寝室(夜) 村山海(5)を寝かしつけている村山静(25)。 海「(たどたどしく歌う)ねんねのねむの木ねむりの……(詰まって)うーん、お母ちゃん 歌とて」 静「(微笑んで歌う)ねんねのねむの木ねむりの木/そっとゆすったその枝に/遠い 昔の夜の調べ/ねんねのねむの木子守歌」 眠りに落ちていく海。 ○雀荘(早朝) だらしなく眠っている村山。 カレンダー付時計、1月17日5時46分。轟音と共に激しい揺れが襲う。飛び起き 外に出ていく村山。崩れた建物の向こうに火の手を見つける村山。 村山「静……海……!」 駆け出していく村山。 ○アパート周辺(朝) 凄まじい火の手。逃げていく人々に逆らい、火の方へ進んでいく村山。 崩れ落ちた「長田荘」の看板。瓦礫になったアパートが燃えさかっている。 村山「どこだ!静!海!」 海の泣き声。村山、瓦礫を素手で取り払う。海の小さな手。さらに瓦礫を取り 除き、海を引っ張り出す村山。村山、泣きじゃくる海を抱きしめ、 村山「お母ちゃんは、中か」 頷く海。降りしきる火の粉。村山、海を抱えると雑踏の女を捕まえ、 村山「この子を、頼む」 女「あんたは」 村山「妻が、中に……!」 女「いったらアカン!」 女を振りほどき、火の手に向かう村山。 海を抱え、火事場から逃げる女。 海「お父ちゃん!お父ちゃん!お父ちゃん!」 泣き叫ぶ海。 ○神戸市・総合病院・全景 T.16年後。 ○同・大部屋 大岩タツ(70)が、TVを見ている。 東日本大震災のニュース。津波に襲われ、瓦礫になった町の風景。注射針を 持った海(25)が震えている。 タツ「(不審そうに)……」 ○同・給湯室 うずくまり、震えている海。 白衣を着た小川直己(25)が、慌ててやってくる。 小川「……海!」 小川、海を抱きしめる。 海「こんなところ……見られたら」 小川「ええんや。平気か……海」 海「TV見てたら、急に息が詰まって……」 小川「PTSDや……外傷後ストレス障害。ハウスで教えてもろたやろ」 海「まさか、こんな風になるやなんて……」 小川「今日は、俺の家に来たらええ」 海に、鍵を渡す小川。 ○マンション・小川の部屋・玄関〜居間(夜) 一人、TVのニュースを見ている海。東日本大震災の報道。小川が帰って来る。 小川、TVの電源を消し、 小川「あかんやないか、また……」 海「ごめん、直己もつらいのに……」 小川「俺は大丈夫や。外科医の卵やで」 海「私は、看護師失格……」 小川「休んだらどうや、しばらく……」 海「うん。そないしよと、思てる」 小川「なんやったら、このままやめて、永久就職でもええんやで」 海「やさしいな……直己は」 小川「お互い天涯孤独の身や。俺も、海が支えてくれへんかったら、どないなって たか……」 写真立てを手にとる海。「あしなが育英会ハウス」の前に並ぶ子供たちの集合 写真。写真を胸に抱く海。 海「……私、行こうと思うの」 小川「どこへ」 海「東北」 小川「……どういうことや」 海「落ちこぼれでも、一応看護師や。きっと役に立つ……それに」 小川「……行方不明の、お父ちゃんか」 海「……テレビ、見てて思った。奇跡的に助かった生存者……100%のうちの、1%」 小川「……どんだけ訪ねた。探して探して探しまくって、それでも見つかれへんかった やないか。これ以上続けても、海の傷を抉るだけやで」 海「……お父ちゃんとお母ちゃんの故郷も、瓦礫と火の海になっとう。お父ちゃん…… 生きてたら、きっと助けにいってるはずや」 小川「万に一つやないか、そんな空しい希望……。俺は、海を守りたいんや」 海「ごめん直己、でも……」 小川「(海を抱きしめ)俺はな、自分の大切なもンを、もう絶対壊されとうないん や……」 海「直己……」 ○同・寝室(深夜) 小川の眠るベッドを抜け出す海。 枕元にメモ。「必ず戻ります。海」 ○岩手県・合歓の木町・小学校・校庭 高台から、瓦礫と化した海辺の町を見下ろしている村山雅夫(46)。 大木実(46)がやってくる。 大木「悔しいのう、あの大津波が船も家も命も、何もかも浚ろぅて行きくさった」 村山「いや、まだ生きとる……。(一本の木を指さし)ねむの木や」 大木「一本だけに、なってしもたのう。夏には、赤い花をざーっと町中に咲かせ よった。あの夏は、戻ってくるかのう」 村山「ああ、取り戻したる。それが、阪神大震災で女房も娘も守れンかった俺の、 せめてもの償いや」 村人の声「村さん、手伝ってくれや」 村山「今行く」 声のほうへ走っていく村山。 すっくと立っているねむの木。 ○同・体育館(避難所) 医師団の引継ぎミーティングに参加している海。 医師「感染性腸炎が増加傾向です。また、インフルエンザの患者がいたら、流行を 防ぐため、速やかに教室に隔離するように」 看護師たち「はい」 ○同・教室 「インフルエンザ患者室」の張り紙。子供たちばかり、布団に寝ている。 患者に薬を飲ませていく海。 ハルカ(4)、海の袖をつかんで、 ハルカ「行かないで……」 海「お母さんは?」 ハルカの目に、みるみる涙が溢れ出す。 海、ハッとして、 海「(ハルカを抱きしめ)……ごめんなさい」 ハルカ「……お歌、うたって……」 海「う……歌?」 ○同・校庭 懸命に物資を運んでいる村山。 海が歌う「ねむの木の子守歌」が聞こえてくる。驚き、声へ視線を送る村山。 ○同・廊下〜教室 足早に来る村山、廊下の窓から教室を覗く。子供達の中心で海が歌っている。 海の歌「故里(ふるさと)の夜のねむの木は……今日も歌っているでしょか……」 同じ歌詞を口ずさむ村山。 村山に気付き、廊下に出てくる海。 海「(不審そうに)何か……」 村山「いや……。昔、連れあいが、娘にこの歌を聞かせてたこと、思い出して……」 目を伏せ、目頭を拭う村山。 海「(覗き込むように)……昔、娘さんに?」 村山「はい、幼い娘によく歌ってました。それが阪神の大震災で……。神戸の長田や ったもんで、火の海の中、別れたきり……生きていてくれればとそればっかり……」 海「神戸の……長田!」 うなずく村山。 海「私の両親も長田で……父は、村山雅夫。母は静。どこかで聞いたことありま せんか」 村山「……海……?あなたの名前は、村山……」 うなずく海。 村山「……(呟くように)海」 海「(静かに)お父、ちゃん?」 村山「海なんか?」 大きくうなずく海。 村山「(叫び)海!」 海「お父ちゃん!」 大きく手を広げる村山の胸に飛び込む海。その、涙でぐちゃぐちゃの笑顔。 ストップモーション― 静の、ねむの木の歌声、かぶって― × × × 花盛りのねむの木、陽光で輝いている |