故障 作:雨紗振雲平

“ギーガコキグラガガ”

「何を怒ってるんだ。三ヶ月も君をほったらかしにしたからか…… 脳梗塞になってしまったんだ。ちっとは同情しろよ」

“ガキュギュギュキョ”

「おいおい、わめくな。ランドセル背負った小学生たちが吃驚して、怖がってるじゃないか。黄色い旗を持ったおばさんが俺のこと睨みつけてるだろ…… もう直ぐ川沿いになる。会社までもうちょっとだ。がんばれ……」

“ガガガギョゴギャゴキュゴ”

「うるさいよ全く。俺だって嫌だぜ。後遺症でしゃべれなくなっちまった。二親とも身体悪いし、親父なんか、今度また転院するんだ。筆談で医者とやりあわなきゃならない。もともと人付き合いが苦手なのに、嫌だなぁ」

“キュキュキュキュルルー”

「今日は一日雨か。一週間は長いよ…… 係長からこれやっといてくれ、とか言われて、パソコンで入力するだろ。あいつ、ちろちろ横目で俺のこと監視してやがるんだ。サボってないツーの。俺のことで上の奴らに何か言われてるんだ…… 以前の俺なら、何か言いたいことあるのかって言ってると思うけど…… そんなことないか。言えないよな…… 生活かかってんだ」

“シュシュシュレシュシュシャー”

「今日は大人しいよなぁ…… いつも強気の君も雨じゃブレーキの利きが悪い分声も出ないってわけだ。俺って、もともと口数が多かったわけじゃないけど、三ヶ月間全く人と話さなかった。いや、話せなかったんだ」

“シュレシュキュ”

「ごめんごめん。君とは話してるんだ。例外だよ…… やっと川沿いの道に来たよ。いるいる、ほらあっちにもこっちにも。亀だよ亀。一度なんか数えてみたんだ。九六匹もいるんだ。もう一寸で遅刻しそうになったよ。こいつら、会話してるのかなぁ。なにか、積み重なっちゃったりして、可笑しいよなぁ……」

“キュルキュルキュルル”

「笑うなよ…… 俺、変なこと言った。ははっ、確かに可笑しいよ。いゃだ、俺、涙が出てきちやったよ……」