朝間飛行 作:雨紗振雲平

 始発駅から乗る私はいつものようにまどろんでいた。次の駅はどっと乗客が乗り込んでくる。

 その日、二人掛けの私の隣にどっかりわかい女が座った。

 サングラスをかけ、帽子からはみ出た前髪が、くたびれて見えた。強い香水と同時に濃厚な汗の匂いが私の鼻をへしまげた。女はもぞもぞしだした。今度はソースの匂いだ。

 女は食べ始めた。ちらっと横目で様子を探ってみた。女はヤキソバパンにかぶりついていた。唇の端からソバがはみ出ていた。匂いは口の中の昨晩の酒と混じりあって、私はむせた。

 女はひとつゲップをするとしずかになった。微かな寝息をたてている。電車が揺れるたびに女の頭が私の顔に当たりそうになる。私に寄りかかる寸前、反射的にひょろっとすり抜ける。嵐に遭遇した首の折れたカカシみたいに。離れては近づきを繰り返す。

 ブーメラン♪ブーメラン♪ア~ 

 外れそうで外れないサングラス。朝の匂いに夜の女の匂いが振り撒かれる。

 そういえば、しばらく女との触れ合いはないなぁ。

 あの時、女は私の夢をこわすつもり、と怒り、帰りの電車で女は眠った。酔っていたからなのか……

 目覚めない女はどんな夢を見ているのだろう。夜を引きずるように快速電車は私の臭覚を突っ走った。