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背中越しの玉ねぎ 作:竹本 信彦(第66期 作家集団)

2011年大阪校大阪校わいわいクリスマスパーティ
課題「幸せの一瞬」
大阪校20枚シナリオコンクール佳作

背中越しの玉ねぎ 作:竹本 信彦(第66期 作家集団)

川崎敏江(63)専業主婦
川崎雅男(62)無職 敏江の夫
真鍋キク(85)無職 敏江の母親
眼科医者
病院にいる患者達

○川崎家・外観
木造二階建て小さな庭付きの家。
敏江の声「ねぇ、お父さん聞いてる?」

○同・アトリエの部屋・中
十二畳の和室。水彩画が壁一面に飾ってある。野菜、果物の絵ばかり。
川崎敏江(63)が、正座をして話している。
敏江の斜め前方に川崎雅男(62)が小さな椅子に座り、パレットと筆を持ち
無言で数個の玉ねぎの絵を描いている。
敏江は川崎の背中に向って話している。
敏江「ほんの5、6秒やで。それを『カラスが来るから早く網閉めて』ってワザと大きな
声で私に言うんやで。私かてそんなこと分かってるやん。分別やからこっち開け
あっち開けして捨てたらえぇんか知らんけど。その度に網触りたないやん。あの網も
のすごい汚いんやで。なぁ、聞いてる?」
川崎「……」
川崎の背中越しに玉ねぎが見える。
足元に絵の具と筆の入った水入れ。
敏江「今な、近所で変な人がいてな、その人に抗議をしようてみんなで言うてんねん」
川崎は、筆を止める。
川崎「えっ?! 交尾?」
敏江「!? 交尾?」
川崎「言わんかったか?みんなで交尾とか」
敏江「交尾やなくて抗議!」
川崎「あ、あぁ、抗議な……」
川崎は、再び筆を動かし始める。
敏江「ほら、やっぱり聞いてへん!」
川崎「……」
敏江「……」
川崎は、筆をタクトのようにして振る。
敏江「何してんの?」
川崎「ん? しゃべる音頭とりや」
敏江「音頭とり!? ふざけんといて! あんたの顔なんか金輪際見たない。この家
出て行ったるわ」
怒った顔をしてその場を立つ。

○同・二階一室
敏江は、トランクに衣類を詰めている。
川崎の声「(一階から)敏江」
敏江「(気にかけてくれたと思い)あっ、はぃ」
川崎の声「紅茶入れてくれへんか」
敏江は怒りを露(あらわ)にトランクを閉め頷く。

○真鍋家・外観
小さな一軒家。

○同・居間・中
トランクを横に置き、卓袱台を前にして座る敏江。対峙する真鍋キク(85)。
キク「それで、出てきたんかいな」
敏江「そうや。何年にも渡り妻の話は聞かへん、相談にものらへん。これって離婚
理由に出来るってテレビで言っとったわ。つまり扶助義務ちゅうやつの違反や」
キク「アハハ、そんな事、よー勉強したな」
敏江「法律は、弱い専業主婦の最後の砦や」
キク「さよか。あんだけ雅男さん大事にしてたのに、最後はそれかいな」
敏江「それは定年までの話や。仕事一筋で無趣味。退職したら絶対にボケる思うて
ボケ防止に水彩画勧めたんが間違いやったわ。入選をいくつもして、今や画家気
取り。個展するんやて。私より玉ねぎの方が大切やねん。子供は自立したことや
し、これからは、おかあさんと暮らして親孝行するわ。おっさんはどうでもええねん」
キク「雅男さんのお陰でこれまで幸せに暮らせてこれたやんないの。アホなこと言う
てんと、このお茶飲んだらサッサと帰り!」
キクは、敏江の前に茶を出す。
敏江「(ふくれて)ほんまに、腹の立つ」

○川崎家・外観(朝)
小鳥の鳴き声が聞こえる。

○川崎家・居間・中(朝)
敏江は、電話で話している。
敏江「え!? うちのお父さん頼りになるから抗議に加わって欲しいって……近所
のみなさんが言うなら言うてみますけど……」
敏江は電話を切り、溜息をつく。

○同・アトリエの部屋・中(朝)
敏江が部屋に入ってくる。
敏江「ちょっとお父さん、相談やけど」
川崎が、イーゼルの前で両目を押さえ苦しんでいる。
川崎「眼が痛い」
敏江「お父さん、どうしたん?」
敏江は、川崎の正面に回り手を眼から離させる。川崎の両目が充血している。
敏江「!!」

○病院・診察室・中(朝)
敏江と川崎が、医者の前に座っている。
医者「急性緑内障です。今、眼は痛みますか
川崎「点眼が効いて痛みはましです。しかし、両眼ともよく見えんのです」
医者「そうですか。二時に眼圧を測ります。下がっていたらレーザー手術をします」
川崎「しますって、誰もまだするとは」
医者「失明しますよ、しないと」
川崎「失明?!」
医者「そうです。早ければ二十四時間以内」
敏江「そんな殺生な!何とか助けて下さい」
敏江は、深々と頭を下げる。

○同・廊下
敏江は、川崎の後ろを心配そうに歩く。川崎は、壁に手をつきながら歩く。
長椅子の前を通り過ぎる。
敏江「お父さん、何処行くん?椅子ここやで
川崎「おしっこや」
敏江「連れて行くやん」
川崎「男トイレにお前入られへんやろが」
両手で壁をつたいトイレの看板を、目を何度も擦って確認して入る川崎。心配
そうに見ている敏江。
廊下の窓から山の景色が見える。
長椅子に座っている敏江と川崎。
敏江は、川崎の手が震えているのを見て、その手に自分の手を重ねる。
川崎の震えが止まる。川崎は敏江を見る。が、焦点は合ってない。
川崎「絵……描けへんようになるんかな」
敏江「絵なんかどうでもええやんか」
川崎「(肩を落として)そやな」
敏江「……ちょっとそっち向いて」
川崎は「うん」といって背を向ける。
敏江は、両手で川崎の目隠しをする。
川崎「……(ゆっくり息を吐く)お前の手、温かいな。落ち着くわ」
敏江「(少し笑い)ちょっと元気なったやん」
川崎「カラ元気や。そないせな死んでまう」
敏江「おおげさやな。なぁ、おとうさん。怖いと思うけど頑張ろう。私、祈っとくし。手術
中、私の手がのっかってると思ったら落ち着くやろ。この感覚覚えとくんやで」
川崎「あぁ。もうちょっとそのまま」
敏江は、頷く。

○同・手術室
手術台に横たわる川崎。
医者「それでは、川崎さん、始めますよ」
川崎は、ごくっと唾を飲み込む。

○同・待合室・中
敏江は両手を握り目を瞑り祈っている。
敏江「成功しますように。成功しますように」
何人かの患者。全員、敏江を見ている。
医者の声「手術は四十分で終わります。四時に、ここへきて下さい」
敏江は、目を開け時計を見る。四時。

○同・手術室・中
川崎は、窓際の椅子に、両目に包帯を巻いて座っている。敏江が近づく。
川崎「敏江か? 手術成功や、目も痛ない」
敏江「良かったやん」
川崎「包帯取ってくれへんか」
敏江「なんも自分で、でけへんねんから」
敏江は、ゆっくり包帯を取る。川崎は目を開け、パチパチさせる。
川崎「見える。お前の皺(しわ)もよう見えるわ」
敏江「(笑顔で)そんなもん見んでええ」

○川崎家・アトリエの部屋・内(夜)
敏江と川崎が入ってきて電気をつける。
玉ねぎや筆、絵など描きかけのまま。
川崎は、イーゼルの前の椅子に座り、数個の玉ねぎを見る。背後で見る敏江。
川崎「よし!」
川崎は、パレットに絵の具を落とす。
筆を取り、水入れに筆を入れ濡らす。
玉ねぎをじっと見て、筆で絵の具を混ぜ、絵の具をつけ、絵を描き始める。
敏江「……」
川崎は筆を止め、振向き敏江を見る。
川崎「お前を描いたったことないな」
敏江「何を言うねんな、急に」
川崎は、イーゼルに白い画用紙をセットして敏江のデッサンを始める。
敏江「え。ちょ、ちょっと(と戸惑う)」
川崎「どないしたんや。表情かたいな。いつもの陽気なおしゃべりの顔をしてくれ」
川崎は、筆をタクトのように振る。
敏江「またそんなことして」
川崎「ちゃうがな。お前のしゃべりがあると筆の運びがええんや。そのお陰でいくつも
賞を獲ったんやで。これからもお前のお陰で絵が描ける。そのお前の絵を個展で
飾らせてもらうからな。感謝してるで。敏江」
敏江「ほんま上手いこと言うて。個展の費用は自分で出してや。ほな、描かしたるわ」
敏江は、満面の笑顔で姿勢をただす。

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