第24回放課後倶楽部 平成17年6月25日(土曜日)
「能とその音楽に見る日本文化」
講 師   山本 哲也 氏
日 時   平成17年6月25日(土曜日)16:00〜18:00
山本哲也先生


  山本哲也(やまもと てつや)氏プロフィール
大倉流大鼓方 (社)能楽協会大阪支部会員
父・山本孝及び人間国宝・亀井忠雄師に師事

《略歴》
1966年3月21日大阪市に生まれる。1973年、小学校2年生の時、独鼓『高砂』にて初舞台(7歳)。1978年、中学校1年生にて初能『経正』勤める(12歳)。1982年、高校2年生にて父の後を継ぐ決心をし、大阪能楽養成会入会。1983年、『石橋』を披く(17歳)。1984年、『猩々・乱』を披く(18歳)。1986年、『翁』を披く(19歳)。同年、能楽協会大阪支部に入会。1987年、大阪能楽養成会を卒業する。1988年、22歳にて大曲『道成寺』(シテ梅若六郎)を披く。同年、大阪の若手能楽師5人と共に能楽グループ『響』を結成。新しい試みにより能楽の普及を目指す。1991年、『鷺』を披く。
1995年、大阪能楽養成会 大倉流大鼓講師に就任。若手能楽師の育成に力を注ぐ。1999年、『卒塔婆小町』を披く。
2002年、大阪市より『咲くやこの花賞』を受賞する。また同年、成田達志と共にTTR能プロジェクトを結成『花形能舞台』をプロデュース。2004年、重要無形文化財総合指定を受け日本能楽会会員となる。


大阪を中心に全国で演能に参加。近年は関西における多くの新曲・復曲に参加し、そのほとんどを自ら作調するなど新たな境地を切り開いている。1990年より謳調会(おうちょうかい)を主宰。大阪・姫路等で能楽大鼓の普及に努める。現在、小鼓方・成田達志と共にTTR能プロジェクトを結成し大阪市との共催で『花形能舞台シリーズ』をはじめ、地方公演、子供達に向けた能囃子のワークショップ公演、レストラン等での能囃子ライブ活動などの企画公演を行っている。

▼コメント▼
室町時代にその形を確立させ、その後650年以上に亘り演じ続けられている歌舞劇である能。世界でも類を見ない演劇であり、2001年にはユネスコより世界無形遺産に認定されました。この世界遺産の基準とは「たぐいな価値のある民衆の伝統的な文化の表現形式、即ち人類の財産」となっています。
日本の伝統文化と紹介される事の多い能。しかし、いったいどれだけの人が能から文化を感じ取っているのでしょう?中世の時代に確立された人の内面を映し出す事にこだわった能の世界を少し紐解いて、皆様と一緒に、MADE IN JAPANを考えてみたいと思います。

講義内容
 2001年にユネスコ世界遺産に認定された能。その大鼓方でいらっしゃる山本哲也先生からは、能の歴史、環境、見どころ聞きどころなどを取材させていただき、同時に、日本の古典芸能を堪能させていただきました。

 「神・男・女・狂・鬼」 演目は五つのジャンルに分かれること、そしてそれらの特徴。武家社会の中で花開き、後に大衆に愛されるまでの経緯。歌舞伎や文楽との大きな相違点、等。参加者にとっては、滅多に聞くことの出来ない不思議で面白く奥深いお話。グイグイ引きこまれていきました。

 また、「能はドラマのある人物がでてくるだけ。何も行動しない」「今、世間で求められている『わかりやすさ』と『スピード』はなく、観客が考え、想像して楽しむ」という点は、シナリオライターに求められるものとはまさに逆! しかし、「本当に大事なものを見せるために、他は見せない(省略の芸術)」「動かないから、動くところが人を感動させる。間を持ってしゃべるから、その言葉に重みが出る(無音の大切さ)」 など、能の世界にはシナリオに活かせる宝物が溢れているようでした。

 最後は鼓の音を披露してくださり、会場は雅やかな雰囲気に。そして、「ぜひ能楽堂で『空気』を味わって、沢山の『クエスチョン』を持って帰ってほしい」と熱いメッセージ。参加者も、「もっと能を知りたい」「魅力的な能楽師を描きたい」等、能に対する新たな思いが芽ばえたようです。

参加された方々のお声
・「能」という一般人にとっては分かりにくい芸術を、初心者向けの切り口で、分かりやすく説明して頂き、大変楽しく聞きことができました。「省略の芸術」「想像力をかきたてる」というお話は、参考にしたいと思います。

・シナリオ・センターに興味があり、秋から受講したいと思っている者です。今回の講義はとても楽しかったです。胸に響くわかりやすいお話しぶりで、感銘を受けました。鼓、習ってみたくなりました。

・「できるだけ動かない」という表現方法を知り、びっくりしました。普段求められている表現方法と逆なので、勉強になりました。

・今日、鼓を近くで見せていただき、音を聞かせていただきました。それだけでも、そのものに宿る物語を感じました。実際に能を観たら、いったいどのような世界なのか……とてもわくわくしてしまいます。能にしかありえない空気というものを、感じてみたいと思いました。

・能の、表面的な部分ではなく、芯の部分に迫ったお話、とても興味深く伺いました。地謡を体験したことがあるのですが、ますます興味がわきました。

・能の奥の深さがわかり、よかったです。シナリオを書くとき、何か役立ちそうな思いです。演じるということの「共通性」と「違い」……能から学ぶべきことは多いように思います。楽しかったです。

・私は十代の頃に長唄の三味線のお稽古に通っていましたが、歌舞伎ではなく、能楽に興味を持ち始めたことが不思議でした。ですから、先生の後半のお話が特に興味深かったです。先生のお話を通して、能楽に対する興味の理由が何なのかが解りました。ありがとうございました。

・テレビや舞台では、「分かり易さ」が大事な要素であると思っていました。が、能は、観客側に「考える事」を求めているのだと、初めて知りました。「秘すれば花」という言葉は、「省略されたものの奥にある真実を自ら考えよ」ということでしょうか? 武家社会から保護されていたということも判ったような気がしました。生と死の一瞬のはざまで、呼吸し、生み出される劇でしょうか?