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「医師の世界とドラマ」

「医師の世界とドラマ」

赤ひげ先生を描いて欲しい、今だからこそ
平成15年5月24日(土曜日)

関西医科大学名誉教授 田中敬正(たなかよしまさ)先生
【プロフィール】
京都大学医学部昭和29年卒業。
関西医科大学名誉教授・大和中央病院放射線部長・放射線医学専攻専門医。
専門は癌の放射線治療をなさっています。
お若い頃から基礎面の知識を臨床へ応用することを目指され、放射線防護剤、増感剤などの論文、著書が多数おありになり、ことに我が国の癌の温熱療法の先駆者です。
今までに一万人近くの癌の患者さんを診察、治療され、患者さん中心の治療、QOLの向上、心の医療の重要性を痛感され、癌告知、ホスピスや在宅医療の問題などに大変関心をお寄せになっています。
温厚で大きな心の器をお持ちのお人柄は、患者さんはもとより、部下である医師達やパラメディカル(診療補助者)より多大な尊敬と信頼を集めていらっしゃいます。
ご趣味は歌舞伎観劇、囲碁、写真、カラオケ、旅行、古寺探訪等多彩です。

人生記録全集(文教図書出版)より
私は大学を卒業後、五十年近く放射線医学とくに放射線治療、癌の温熱療法を専門に行い、癌の治療に打ち込んで来た。二十世紀迄の癌の治療は、手術を中心に 放射線、化学療法、温熱療法などを併用して行うことが最も大切であると考えられている。今迄一万人程の癌患者を診て来た私は、今迄をふりかえり、若い方々 に私の理念が何かお役に立つことでもあればと思い筆をとって見ることにした。

一. 医の心の大切さ

十年位前迄は、私は研究のための研究、データ集めのための診療を行って来たが、最近は患者の幸福のために何が出来るかと云うことが最も大切であること~即ちこれが「医の心」と思う~に気がついた。医学会の方も機を一にして患者の生きている間の生活の質を高めることの重要性を、となえる様になった。これをQOLを高めると云う。今年春、これの第一回の国際学会が開かれる。私の接した患者さんは、末期癌患者が多く、この人々の苦しみを如何にして和らげられるかに大変腐心している。医師はどうしても患者の生命延長のため死の直前まで点滴や静脈栄養、呼吸管理などを行い、手や足に一杯の導管挿入を行い、患者に苛酷な治療を強いている。最近は、QOLが叫ばれ、その生きている間の質の重要性が認識される様になった。当然のことながら患者の苦しみをそのまま自分の苦しみとしてとらえようということである。

臓器温存として早期乳癌に対して乳房温存療法がある。早期乳癌でも以前はすべて乳房全摘出を行ったものであるが、最近では局所のみ腫瘍を摘出し、そのあと放射線治療を行うと副作用もなく、患側がどちらか見分けがつかぬ位の出来ばえで治り、治癒率は全摘出を行ったときに比べ全く変わりがないことが、わかった。乳房が全く美しいままに治ったのを見たときに医師になった喜びをかみしめたものである。また喉頭癌のⅠ期は放射線治療単独で完治出来る可能性が非常に高く、以前も放射線治療のみで完治したため、声帯が保たれ自分の声が出る喜びを聞いたとき深い感激を覚えたのである。

二. 人の痛みのわかる心豊かな人に

昨年春、国際学会が慶州(韓国)で行われナザレ園を訪問出来た。戦後日本人妻として韓国に渡った人々が段々身よりがなくなり帰国するのも困難になったときに、約三十年前金龍成氏が自費でナザレ園を慶州に作り日本人妻への福祉活動をしておられる。入園者三十人位、日本人妻はまだ八百人位あり、生活に困っている百人位には今でも送金していると云う。入園者は信仰の道に入り、おだやかに老後を送っておられると云うことであった。設立者金氏の父は戦時中日本の憲兵による思想犯として韓国で獄死しており、金氏にとっては、日本は云わば仇の国である。設立当時、日本人のために立派な園を作るとは何事かと云う世論が韓国におこり、迫害も度々受けられた。金氏は韓国の人々を心より愛した日本人妻は、我々と同じ差別を経験した人達である。この「愛の勝利者」をどうしてないがしろに出来ようかと述べておられる。入園者の皆さんは底抜けに明るく、終始にこにことしておられ、「ふるさと」など日本の古い歌を歌ったとき、その生き生きとした姿に面くらい、私達の方がむしろ涙を禁じ得なかった。遠くない将来例えばゲノムの異常が病気の診断、治療の選択、予後の予測に使われる様な時代が来るであろう。この時にこそ、医学生の教育には「医の心」を教えることが最も大切であると考えられる。医師には、いやどの様な職業の人達も人の幸、不幸を自分のことと感じる心が大切であると感じ、温かい充実した心で帰国することが出来た。

末期癌患者のためのホスピスがあるが、我国では数も少く極めて貧弱なのに対し、欧米のそれは、牧師さんも参加し夢の様に美しい所で心安らかに死をまつ様子を見るとき、日本の医療の後進性が残念でならない。それも今の医療制度では全く採算が合わないためでもある。イスラエルでは日本に劣らず医師過剰でまた非常に薄給でもある。それにも拘らず多くの若者が医師を志望し、入学が大変むつかしいとのことである。今の若い人達の考えは私にはまだよく解らないが高収入で仕事が楽で格好の良い職業にのみ人気があり、所謂3Kと云われる縁の下の力持ちの様なものが敬遠されるのは寂しい気がする。

苦しい人生を背負った人を見ると、心の中では「助けてあげたい」と思う。そこに仏心がある。その仏心をそのままに行動に移すためには損得利害の慾心を捨てなければならない。私は宗教は門外漢であるが、禅の書『智度論』によると衆生に対して四つの福を与えることを仏の四無量心と呼ぶそうである。即ち①慈無量心(衆生に楽を与える)②悲無量心(衆生の苦を抜く)③喜無量心(他の歓喜を見て喜ぶ)④捨無量心(他に対して無憎であること)とし、これらは禅の修業によって得られるとしている。これらは仏心であるが、日常生活の中でこの四つの花を咲かせて見せることこそ、すばらしい人生が開けてくるに違いないと思う。今迄患者さんの喜ぶ姿を見ることが出来たのは、無常の喜びであったと思っている。

三. 夢をもって無限の可能性を求めて進もう

最近の医学の進歩は目を見はるものがあり平均寿命も長くなって来た。しかし、まだまだ解決しなければならないテーマも多くある。

例えば我々の分野でも、癌の中で肺癌は最近、胃癌を抜いて第一の罹患率となったが、ここ十年間生存率の増加が見られない。また、胆のう癌、膵臓癌などは、まだこれといった治療方法が見られず手つかずの状態である。これらのことを講義中に熱を帯びて話をしても、学生は無感動であった。今の医学生は卒業して国試を通って……と生活設計が小さく出来ていて小粒の人間形成志向の様に思えて仕方がない。私が卒業した昭和二十九年頃は、日本の医学水準は低く、その当時の学生は欧米の医学にあこがれ、奨学金を得て外国にわたり、現在の日本の医学の隆盛を築いたと思う。

私もカナダ原子力研究所で放射線障害の研究をしたが、当時1ドル三百六十円でしかも、日本円を持ち出すことが出来ず、1ヵ月六百ドルで苦学をしながら研究し、その時の研究テーマが私の将来の骨路をきめたといって過言でない。勿論、語学や習慣の違いなど、苦労をしたが、情熱さえあれば、殆どとるに足らないと思っている。

夢をもって仕事に邁進したときも、途中で必ず挫折感におそわれることは必須である。キュリー夫人ですら研究中大量のピッチブレンドより、ラジウム分析をするとき多くの研究費と毎日の困苦にややもすれば、挫折感に陥りそうなのを、御主人のピエールのはげましもあり、トラックに一杯のピッチブレンドから、やっとシャーレに入るわずかの物質を得た。これが闇の中で光を放つラジウムであることがわかったときの喜びは、格別であったと思われる。しかも、その後彼女には、ピエールの交通事故死や手の放射線障害にも拘らず、一生研究をつづけ、生涯二回ノーベル賞に輝いた。

医学での発見の多くは、執拗なまでの忍耐力の積み重ねである。例えば吉田富三教授は、オルトアミド・アゾトルオールという化合物を米にまぜてネズミを飼育し、毎日その食物を与えて、およそ三百日たつと肝臓癌が例外なく起きることを示した(一九三二年)。これより、国の内外で発癌物質の研究が盛んになされた。これは何度も失敗を繰り返し、やっと得られた結果である。挫折や失敗は若者の特権とさえ云える。「我々は成功によってよりも、失敗によってこそ知恵を学ぶ」という言葉がある。肝心なのは、どう乗り越えて自分の人生に生かせるかということであろう。最近の若い人は、極端に失敗を恐れ苦しいことに対する忍耐力も欠けている。若い時代にどれだけ重荷を自分に課し、それをクリアーする生き方をすることが大切だ。どうか二十一世紀で日本をささえていく若者よ。大いに悩み迷い、苦労をいとわず自分を大いに生かされます様にお願いしたい。

四. 生命(いのち)あるはありがたし

私が医師になって間もなく、末期乳癌の患者さんを受けもったことがある。その方が死亡する二日前に「先生長らく色々ありがとうございました。これで喜んで死ぬことが出来ます」と云われ、若い私は非常に驚き大きなショックを受けた。一年近く病床につき、癌がいたる所に転移したために痛みが強く、苦痛の毎日であったのに、何故ありがとうと云う言葉が出たのであろうかと不思議でならなかった。最近、石上善應先生(大正大学教授)の生きるための知恵を読んでそれが氷解した。すなわち釈尊によると生命の「あり難さ」の箇所に、ひとの生をうくるはかたく、やがて死すべきもののいま生命(いのち)あるはありがたし、正法(みのり)を耳にするはかたく、諸佛(みほとけ)の世に出づるもありがたし(友松円諦師訳)と云う言葉がある。石上先生によると、「死すべきものが今ここに命がある」と云うことがいかに「ありがたい」ことかを云っているのである。実際に死が迫っている人が、「ありがたい」と云う言葉を云っていることが不思議な感銘をうけたわけであるが、「ありがとう」と云う言葉の連発が、いまの自分の生命のありようを一つずつ探しているのかも知れない。健康な人間のほうが、「ありがとう」と云う意味を意に介してないと云えると思う。私は医師になったときから医学と宗教の接点は必ずあると考えていたが、医学が進歩すればする程、医師はもっと格調の高い宗教心を持たねばならぬと思っている。

先日テレビで二十一世紀のあり方について討論があったが、発言者のすべての人が、経済の立てなおしや、不況脱出、福祉の増加など、いつもの話題に終始していたが、後ろに座っていた若い人が、一言、今後は、科学の発達もさることながら、心の不正を是正し、不幸な人々を思いやる心豊かな世の中になることの必要性を述べた所、司会者は、そのことに思いをいたさなかったことで一瞬愕然としているのを見た。それ程今は精神面の貧弱さ、うすっぺらな人生観、倫理観の欠如を来し、社会のみならず、人格形成に最も大切な学校教育にまで無味乾燥になってしまったことに我々はもっと気付くべきではなかろうか。医の心、政治の心、教育の心を考える時と思い、筆をとった次第である。

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